米原万里 不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か

今日は珍しく、本の紹介である。
もしあなたが外国語を学習する中で、通訳や翻訳という行為に興味を持ったのならば、ぜひ一読をすすめたい。

外国語を外国語として直接理解し、自らも外国語を駆使して意思疎通が成り立っているならば、通訳や翻訳という作業は必要ない。
しかし、通訳・翻訳士は売春婦と同じく人類史の最も古くから存在したであろう職業だと筆者は記し、自らの体験や師の教えなどを例として用いつつ、苦楽も恥じも誉れも包み隠さず、通訳の仕事というものをつづっている。

タイトルは筆者が売春婦になぞらえ、通訳の仕事のあり方というものを説明した際に出てきた表現だ。
文体が美しい美人、醜いブス。そして発話者の意図に忠実な貞淑な訳と不実な訳。
悲しいかな、理想であろう貞淑な美人はほぼ存在せず、大体においては「不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か」が通訳の大半なのだと言う。

私が好きなくだりは、通訳のプロセスを図を交えつつ説明する部分。
自分の理解のボトルネックがどこにあるのか、追求するヒントになったからだ。

また、外国語の理解の難しさを紹介するエピソードも面白い。(笑えないが)
たとえば、ある船で同乗した外国人が、食事の前に何か話しかけてきた。しかし、こちらはまるで分からない。
おそらく初対面の挨拶かと考え、私はロバートです、と自己紹介した。
しかし、その次も食事の際に同じことを話しかけてくる。なんてもの覚えが悪い人だと思いつつ、ロバートです、と再び自己紹介。
すると、船長がその国の人は食事の前に決まった言葉で挨拶をするのです、と教えてくれた。
なるほど、あれは食事の前にかける言葉なのかと合点し、次は食事の時、その言葉を例の外国人にかけてみた。
すると、「私はロバートです」その外国人は笑顔で返してきたのだった。
なんとも面白くて笑えない話である。
外国語を学ぶものとしては背筋が凍るエピソードであろう。

言語を学ぶということは、その背景にある文化や考え方を学ぶことでもあり、さらには自分の母国語の背景にある文化考え方との違いを思い知らなければならないと言うことであろう。
「私はロバートです」
そう返してきたその国の方は、まだお互いの言語の隔たりが実際どれほどなのか、分かっていななかったのだ。

原稿が手に入るなら、絶対事前に手に入れろ。
仕事が決まったら専門書をむさぼり、頭に叩き込んだ。
料金は前払いにしておけ。などなど。
通訳に対する経験談、忠告も、なるほど、通訳という仕事の現実とその苦労をうかがい知るに十分だ。
筆者はロシア語通訳の神として名をはせたのだと言うが、それ以外の言語の学習者にも参考になるだろう。

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2015/10/15 22:04 | よみもの(本の紹介)COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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